そして(やや狭義な)UXデザインのすべて。
UXデサインは応用が効きすぎる
昨今、UXという言葉はとても広範なものとなりました。今や企画やマーケティング、経営の範囲にまで手を伸ばしているUXデザインは、しばしばその定義が不明確になることがあります。
人々を巻き込む広い領域にUXデザインが入り込むことの有用性は、たしかに存在します(例えば顧客開発のように)。
それは、UXデザインの根底にあるデザイン思考が、共感的かつシステム思考的な課題探求を行い、それを解決していく思考様式であることが理由と言えるでしょう。
デザイン思考は実践的かつ創造的な問題解決もしくは解決の創造についての形式的方法であり、将来に得られる結果をより良くすることを目的としている。 — Wikipedia
つまり、UXデザインは応用が効きすぎるのです(経営者は須らくUXデザイナーであるべきという論説もありますし、私自身もそう感じています)。
しかし、そういった応用的な領域は、必ずしもUXデザイン(あるいはデザイン思考)で行わなければいけない領域ではありません。万能であることと最適であることは異なるものです。
そこで今回はあえて、UXデザインがUXデザインとして活躍する場所、即ちユーザーから見えるプロダクト周辺についての体験デザインをUXデザインと捉えて、UXデザインで行うべきことをお話しようと思います。
そしてこれは恐らく、世の中的にUXと捉えられている領域の解説となります。そのため、上記で説明したようなやや狭義なUXを、以後「いわゆるUX」と呼ぶこととします。
エクスペリエンスホイールはいわゆる「UX」のサマリー
いわゆるUXを説明するのに最適な図があります。それが、下記のエクスペリエンスホイールです。
端的に言えば、エクスペリエンスホイールはいわゆるUXを構成するもののサマリーと言えます。
円の内側には内包するUXの要素・その担い手が記されており、外側にはそれぞれの要素がどの戦術的フェーズ・戦略的フェーズに当てはまるのかを記しています。
身も蓋もない言い方をすれば、これがいわゆるUXの全てです(でも、とても分かりやすいですよね)。
内包する6要素
エクスペリエンスホイールを見てみると、内側に内包されているのは「ファインダビリティ」「アクセシビリティ」「ユーザビリティ」「デザイラビリティ」「クレディビリティ」「ユースフルネス」の6つです。
この6つについてデザインを行っていれば、それはいわゆるUXをきちんとデザインしていると言っていいでしょう。6つの中にも更に細かい要素に分かれているので、それぞれ細かく見ていきます。
ファインダビリティ
含まれる要素(エクスペリエンスホイールの和訳です):口コミ、ネーミング、ブランド・マネジメント、マーケティング、SEO
言葉の通り、見つけやすさのことです。ここには、マーケティング的な要素も含まれますね。顧客がサービスを発見するところのデザインです。
アクセシビリティ
含まれる要素:応答時間、ブラウザ互換性、WCAGなどの標準的なガイドラインに従うこと、コンテンツとプレゼンテーションの分離
アクセシビリティは、誰でも必要とする情報に簡単にたどり着き利用できるかどうかのことです。
特にWebやアプリの場合、アプリケーションのパフォーマンスに配慮できていますか?
どのデバイスやブラウザで見ても大丈夫ですか?
色弱や色盲のユーザーを想定したデザインになっていますか?
コンテンツと言いたいことがごちゃ混ぜになっていませんか?
ユーザビリティ
含まれる要素:ナビゲーション、直感性、構造、ネーミング、カテゴライズ、一貫性
ずばり「使いやすさ」のことです。
当記事のはじめに書いた通り、もはや説明不要なほどUXデザインの世界ではその重要性が説かれ続けています。これからのサービスには、優れたユーザビリティは基礎的な条件となってくるでしょう。
デザイラビリティ
含まれる要素:カラースキームとコントラスト、メディア(image等)の使用、グラフィック要素、タイポグラフィ、要素配置
ユーザーや顧客、つまりペルソナにとって望ましいデザインかどうか、使いたくなる・買いたくなるデザインかどうかのことです。
ビジネスマン向けの金融サービスで「楽しそう」なデザインをするのは好ましくないでしょうし、反対に女子高生向けのSNSで「真面目そう」なデザインをするのは好ましくないでしょう。
(勿論これはかなり大雑把な例で、現実にデザイラビリティをデザインする際はかなり微妙な作業や葛藤、計算が必要になります)
デザイラビリティは主にUIの中のグラフィックデザインやインタラクションデザインが担う領域です。
良いデザイラビリティを作ることはグラフィックで顧客の期待と感情をデザインすることと同義であり、ブランディングと深く関係しています。
ユーザビリティが担保されていることが当たり前になっている現代、今後はこのデザイラビリティが重要な時代になってくるでしょう。
参考:デザインに必要なのは「ユーザビリティ」だけじゃない。そそるデザインを作る方法
クレディビリティ(信頼性)
含まれる要素:(メッセージやテキストの)声色・語気、整合性、検証可能性、目的に合うかどうか、期待される情報
クレディビリティは、信頼性のことです。あなたのサービスの信頼性はきちんとデザインされていますか?
ユーザーはサービスに一定の信頼を持たないとアクションしない傾向にあります。そして厄介なことに、よほど著名なサービスでない限り、ユーザーの信頼は簡単に失われてしまいます。
例えば、あなたはタイプミスをしているサービスを見つけたり、デザインのレイアウトが崩れたサイト、最終更新が1年前のアプリを見て「信頼できない」と感じたことはありませんか?
他にもまだたくさんあります。
サービスのストーリーやユーザーの声を記載していますか?
FAQやヘルプは充実していますか?
有料サービスの値段を「応相談」にせずきちんと公開していますか?
メールアドレスやSNSアカウントなどの情報を入力させる理由を記載していますか?
取得した情報をどのように扱うかきちんと記載していますか?
サービスの信用を担うこの分野はUXデザインの中でも、UXライティングやカスタマーサクセスといった職能が特に役割を担うと言えるでしょう。
ユースフルネス(有用性)
含まれる要素:期待される機能、予期せぬエラーの少なさ、満足(度)、差別化ユニーク性・独特さ
例えば、
サービスに期待されている機能を把握し、実装できていますか?
反対に、不要な機能を削除する準備は充分ですか?
不可逆のエラーが存在していませんか?
適切なエラーメッセージを提供できていますか?
404ページのデザインに配慮できていますか?
あるいは、もっとデザイン寄りのミクロな注意点も存在します。
チュートリアルなどのオンボーディングをきちんと設計していますか?
ボタンを押した時ローディングがきちんと出ていますか?
ローディングをスケルトンスクリーンやアニメーションなどのより良い形にできないか検討しましたか?
エンプティステートを用意していますか?
コンテンツをタップした時やホバーした時に要素に変化が起こるように実装できていますか?
つまり、ユースフルネスは機能そのものや、機能を補助する機能・機構・デザインなどをまとめた概念です。
ユーザビリティが使いやすさを指すなら、ユースフルネスは「ちゃんと使えるかどうか」を指します。
ユースフルネス(有用性)は内包するより小さな有用性によって効能を発揮する、いわば入れ子構造になることが多く存在します。
どんな便利な機能も、機能そのものよりもミクロなレベルでデザインされたナビゲート要素等によって、存在に気づかせたり使い方を学習させなければ、ユーザーにとって有用なもの(使えるもの)ではありません。
私は普段、これを「有用性は有用性によって暴かれる」という言葉で説明しています。機能のコンセプトや使いやすさだけでは機能は充分に機能しないということですね。