【緊急速報】AdobeのFigma買収が15ヶ月間の調査の結果、なんと白紙に!?消えた2.9兆円。
AdobeとFigmaの200億ドル買収案が規制当局の非承認で破談。競争力とイノベーションの維持が焦点。Figmaは逆解除手数料として10億ドル受領。私たちはどう受け止めればよいのか?今後の展望も予想します。
Introduction
大きな動向があったので、緊急で本記事を書いています。
本日12月19日の未明(現地時間18日)、表題の通り、AdobeによるFigmaの200億ドルでの買収が、規制当局であるCMA(競争・市場庁)の調査と検討を経て、解消となりました。
2.9兆円の超大規模買収が、無かったことになったのです。
同買収は約1年前、プロダクトデザイン界隈に大きな波紋を呼んでいました。
一報を受け、急ぎ情報をまとめました、さっそく連続ツイートで投稿しています。買収・売却の経緯事例としても興味深いものでした。
本件はプロダクトデザインに関わる人に親しい動向なため、まとめた内容をニュースレターでもシェアします。
公式発表
FigmaとAdobeはそれぞれ、公式に声明文を発表しています。
両社のプレスリリースとも、規制当局からの承認が得られず止むなく破談となった旨が掲載されており、間違いない情報のようです。
Figma側:Figma and Adobe are abandoning our proposed merger(訳:FigmaとAdobeが合併案を断念)
Adobe側:Adobe and Figma Mutually Agree to Terminate Merger Agreement(訳:AdobeとFigma、合併契約の終了に相互に合意)
破談の影響
この破談に際して、 売却契約の破棄によってAdobeはFigmaに10億ドルの逆解除手数料(reverse termination fee)を払うことになります。
この最低限の保証によって、Figma側の労力は完全に無駄になったわけではありませんが、買収は200億ドルのオファーだったことを鑑みると、Figmaは予定の20分の1を受け取るに過ぎません。
Adobeにとっても、競合他社に10億ドルをプレゼントすることになります。
超大型買収に沸いた1年前から一転、両者にとって思わしくない結果となってしまいました。
背景と非承認の理由
競争・市場庁の判断
背景的には、やはり主眼は競争(独禁規制)の問題。
規制当局(CMA)は、AdobeがFigmaの競合プロダクトであるXDを持っていたこともあり、買収によって、Figmaが独立していた場合に起きるイノベーションが損なわれる可能性を示しました。
暫定調査報告
公開情報としては2023年5月3日から続く、長きに渡る調査を経た先日11月28日、この合併は次のような競争の低下を起こすと報告されました1。
製品設計ソフトウェアにおける主要2社(FigmaとAdobe)の競争を排除してしまう
イノベーションと新しい競争力のある製品の開発を減らしてしまう
Adobeの主力であるフォトショ, イラレの脅威としてのFigmaが消えてしまう
救済案が出るも
このためCMAは、重複事業であるXDを売却し、それによって競争環境を維持するという救済案もAdobeに提案しています2。
その後12月14日、この救済案を、AdobeとFigmaは拒否・反論しています3。その理由・論旨は次のようなものでした。
「XDの商業的失敗はFigma買収によるものではない」
「市場は既に競争状態にあり、買収が競争に与える影響は重要でない」
「XDの売却という提案は実際の競争環境に照らし過度」
「売却の実現性が疑問な上、売却しても競争への影響は小さい」
結局このまま平行線となると予想されることから、Adobe - Figma間で合併を解消することで合意したようです。
Figma CEOのスタンス
ディラン(FigmaのCEO)からすると、当然今回の破談は面白いわけがありません。
彼はXのポストにて、CMAからの承認がついに適わなかったことを報告しています。
AdobeとFigmaは、15ヶ月に及ぶ懸命な検討の結果、本日、規制当局の承認に向けた道筋が見えなくなったため、懸案となっていた合併を解消することを決定しました。
また、Figmaのプレスリリースを見ると次のような文章もあり、AdobeとFigmaのポジションが違う(つまり独占的でない)ことを当局に対し長らく明確に説明してきたのだ という姿勢も示唆されています。
…but despite thousands of hours spent with regulators around the world detailing differences between our businesses, our products, and the markets we serve, we no longer see a path toward regulatory approval of the deal.
…しかし、世界中の規制当局と何千時間もかけて、両社の事業、製品、市場の違いを詳細に説明したにもかかわらず、もはや規制当局の承認に向けた道筋は見えない。
しかしながら努力の甲斐なく、当局には認められませんでした。
消費者視点
Adobeやディラン(そしてFigmaの投資家)にとっては望ましくない成り行きとなりましたが、消費者の視点では、この買収の不成立は喜ぶべきことかもしれません。
市場の競争力を奪いイノベーションや速やかなプロダクト開発が失われかねない買収が阻止されたことで、私たちユーザーは引き続きFigmaやAdobe製品の意欲的な発展を享受できると思われるからです。
調査報告ではこの種の競争があったことを示す実態も提示されています4。
…Figma has driven product development in Adobe’s Photoshop and Illustrator applications, including new web versions.
…Figmaがもたらす脅威が、新しいWebバージョンを含むAdobeのPhotoshopおよびIllustratorの製品開発を推進している
規制当局はイノベーションの足枷であるかのような偏見を持たれがちですが、そのイメージとは異なり、英国CMAは今回、競争というイノベーションの原材料を保つための統制倫理を持ち、その執行力を行使したということでしょう。
私見
今後どうなるのか?
両社の関係がこの後どうなるのかは、まだ読めません。
ただ、CMAの意図するように競争環境が維持されたことで更なるイノベーションが起きるという考えは、つまりFigmaとAdobeが直接対決ししのぎを削るような市場が望ましいということになります。
事実としては、両社は再び”競合他社”というポジションに戻っていきます。
ダメージはFigmaよりAdobeに
ではその競合している市場を見てみると、ソフトウェア開発市場においてはAdobeとFigmaの力関係は数年前に逆転し、その差は現在も開き続けています。
そのFigmaの買収はAdobeにとって戦略的なウルトラCでしたから、これを阻止された今、Adobeの打ち手は、別の大逆転手段(別の買収など)を狙うか、はたまたソフトウェア開発市場に見切りを付けFigmaと戦わない方針を取るかといったところになるでしょう。
例えばAdobeがAI技術に長らく投資を続けていること、AIによる産業革命が予期されることは、AdobeがDTPや映像市場に再度フォーカスする理由として充分に見えます(ソフトウェア市場も同じではあるが)。
なお、Adobe XDのアップデートを再開するという方法でFigmaと切磋琢磨していくことは、Adobeにとって無駄な出費の多い戦い方になるでしょう。
開発現場への適合性という点であまりに開きが大きすぎて、今や買収などの方法で”時間を買う” ことでしか埋められない状態です(だからこそ買収したかった)。
今回の非承認でよりダメージを受けたのは、カネを手に入れられなかったFigmaではなく、時間を手に入れられなかったAdobeだということになりそうです。
参考資料
Adobe / Figma merger inquiry(GOV.UK)
Substackアプリを使うと読みやすいのでおすすめです。
Notice of possible remedies(可能な救済策に関する通知):https://assets.publishing.service.gov.uk/media/6565c0e362180b0012ce82c8/Notice_of_Possible_Remedies_pdfa.pdf
Parties response to the notice of possible remedies(可能な救済策の通知に対する当事者の回答):https://assets.publishing.service.gov.uk/media/658008d395bf65001071912f/Adobe-Figma__Response_to_Remedies_Notice.pdf