「新しいメッセージングツールのUIの案があるんです!見てみてください。ボタンをクリックで開くモーダルでアイコンをクリックすると、編集モーダルが起動してその中で集中してメッセージを書けるようにしてみたんです!」
キラキラした目で、UIを任されたフロントエンドエンジニアでディレクターのメグミさんはプロトタイプを見せています。
「お〜なるほど。シンプルで分かりやすくて良いですね。スムーズです」
仲の良い顧客であるユウヤさんは、プロトタイプを操作しながら、その言葉通りスムーズに操作を進めていきます。
「そうでしょうそうでしょう。使ってくれますか?」
「もちろん。メッセージは毎日やる仕事だからね」 ユウヤさんは無表情に答えました。
「よし!きっと気に入ってくれると思っていました!」
このプロトタイプの例には、明らかにUIデザインとして視野狭窄な間違いがありますが、驚くべきことではありません。
実際のところは、ユウヤさんはこのUIを気に入り、ヘビーユーザーとなるかもしれません。しかし、このユーザビリティテストにおけるフィードバックはあまり有益ではありません。
UIの正解やそのための戦術はいくつかあります。仮説を検証する際には、適切な戦術を選択し、得るべきフィードバックの質を認識することが重要です。
私は、上記のような、十分に設計されていないジャストアイデアベースの設計を使ったユーザビリティテストで得られるのは、良質な情報ではないと考えています。
ユーザビリティの落とし穴
ユーザビリティテストはコンテキストを限定することが多いものです。
オープンなシナリオを設計したとしても、半構造化された質的調査である以上、そこには必ず用意されたスコープが存在します。アンケート手法ほど窮屈ではないというだけです。
このリサーチによってUIについて意思決定をするということは、その特定のコンテキストに最適化していくことです。
特定のコンテキストに最適化していくということは、ユーザーのニーズを満たしているように見えます。
しかしその実、そのコンテキスト上にないユーザー全員が恩恵を受けられなくなっていくということでもあります。
設計の良し悪しを「出してみて反応を見よう」と言って判断していると、どんどんそのようなコンテキストに個別最適化された設計に陥っていきます。
次の画像は、ユーザビリティとコンテキストの関係を表しています。

この画像の内いずれか1つの矢印にしか対応しないことは、一般的にUIデザインとして望ましいことではありません。
そのような設計は、”特化”していると言えば聞こえはいいですが、実際は”欠落”していると言った方が近いでしょう。
なぜなら、まず大前提として、ユーザーのコンテキストは開発者がコントロールできるものではありません。
「想定する利用シーン」ならば作れますが、それはコントロールではありません。
また、対応すべきコンテキストや「想定する利用シーン」が増えた場合、コンテキストに最適化していくやり方では開発効率に限界があることも想像できるはずです。
つまるところ、コンテキストが増えるたびに、そのコンテキストに最適化したオーダーメイドの機能とUIを作ることになるからです。
ERP事業やCREを含むハイタッチな成長モデルを長期に描いている企業ならば蓋然性がありますが、それでも戦略的に優秀とは言えません。大変にコストがかかるやり方です。
こういった自体に陥らないよう、(ユーザビリティテストはいいことですが)UIの根拠には確固たる設計指針があるべきです。
どうするか?
さて、メッセージツールの話に戻りましょう。メグミさんはどうすればいいのでしょうか?
ユウヤさんはスムーズに操作しました。そのフィードバックは、彼女の天才的なアイデアを検証するのに十分でしょうか?
いいえ、それは限られたコンテキストの検証に過ぎません。より多くのコンテキストへの注意と、より広い視野を持つべきです。
テスト時により自由なシナリオと空間を与えるべきでしょう。1
ユーザビリティテストの実施は重要ですが、コンテキストによるバイアスを取り除いて観測しない限り、フィードバックの質は低くあり続けます。
また、より無駄の無い方法は、すべてをユーザビリティテストに依存するのではなく、基礎設計を明確で汎用な設計指針によって行うことでしょう。
個人的には、特におすすめなのはオブジェクト指向の設計を履修することです。

ユーザビリティを考える場合、どうすればコンテキストの限定によるフィードバックの質の低下を抑えることができるかを検討します。
UI設計は汎用であれば汎用であるほどよいのです。
“より自由なシナリオと空間を与える”
もしその中でテスターが想定のスコープに至らなかったら、テストを中断します。そうすれば、テストしたいコンテキストが発生しなかったという点から生存性バイアスを逆手に取って、そのUIに存在するテストスコープ外の設計のマズさを認識できます。
しかしながらそうすると、何度テストを行っても十分なフィードバックが受けられない可能性さえありますし、しかもこのテスト手法は難易度が高いものです。
人間は見たいものを見るという確証バイアスを一般的に持っていますから、ついテスト中に誘導してしまったり、時間が無駄にならないようにとテストのコンテキストを狭くしがちです。