コーチングのテクニック 質問編 “6つの鏡”
コーチングのテクニック 質問編 “6つの鏡”. コーチングの基本は「相手を映す鏡になる」ことですが、鏡のなり方や使い方はたくさんあります。ここでは、自分がよく使う6つのテクニックを紹介します。様々な鏡を手札に持ち、ケースによって使い分け、時には質問する/される立場を逆転したりして、相手の問題解決に貢献しましょう。.
6種類の鏡を使い分けよう。
ここしばらく、コーチングのお仕事を引き受けています。効果が見られる回もそうでない回もあり、毎回少しずつやり方を変えながら試行錯誤する日々です。
そしてそろそろアウトプットするのに十分なナレッジが溜まってきたので、備忘も兼ねて、コーチングの際使えるテクニックを共有できればと思います。
エッセンス
部屋の明かりをつける:直近の点数を訊ねる
鏡を増やす:周囲のモデルやリソースを材料にする
鏡を反転させる:あえて相手の言っていることと違う内容に整理して要約してみせる
鏡をボヤけさせる:相手にとってよく分からないであろう言葉で要約したり、早口でまくし立てる
鏡を歪める:相手の言葉の一部を抽出して誇張や卑下する
化粧鏡になる:相手の考えを更に美化する
コーチングとは?
コーチングとは、対話を通して目標達成や課題解決に必要なスキルや知識・考え方を備えたり行動することを支援するプロセスです。
一度ではなく、何度も何度も対話を繰り返すことで効果を発揮していきます。
よくある勘違いとして、部活のコーチのように具体的な方針やテクニック・作戦などを教導する立ち位置ではありません。指導者や教導者ではなく、理解者であり伴走者と言えるでしょう。1
もしくはその性質から「鏡」と表現されることもあります。
鏡になる
コーチングの最も基本的なテクニックが「鏡になる」です。自分が相手の鏡像になってあげるのです。
鏡なので、自ら意見を述べたりアドバイスを提供したりはしません。相手の言葉をオウム返ししたり、整理して「〜〜ということですか?」と返したりします。
整理した内容やオウム返しの内容が間違っていても多くの場合相手が訂正してくれますが、人によっては指摘する勇気を持てなかったり、返ってきた言葉に納得してしまうことがあります。
なので、出来るだけ情報が劣化しないよう注意が必要ですね。僕はこれを屈折率が低い(高い)鏡と呼んでいます。
コーチングを継続すると自分の中に鏡が生まれる
ただ、多くの場合、単なる鏡になるだけでは不足してきます。
何故なら、何度もコーチングを受けた人は、上記のような基礎的な鏡を自分の中に生み出し始めるからです。
本来、自分のことを客観視するのは難しいものですが、コーチングは客観的な視点を育てる側面を持っており、整理やオウム返しだけでは、コーチの必要が無くなる日がいずれ訪れます。
ある人についてコーチングで解決できる課題が少なくなってきたと感じたら、およそこの作用のためです。コーチング自身の貢献度や力不足ではなく、相手の中に鏡がインストールされたのです。
これはとても喜ばしいことです。だから、もしコーチング相手がそうなっていたら、コーチは、より高度なコーチを紹介してあげるか、卒業を促してあげるのが賢明です。
鏡にもバリエーションを持つ必要がある
では、より高度なコーチングのテクニック──より高度な鏡というものは存在するのでしょうか?
はい、あります。
鏡のなり方や鏡の使い方はたくさんあります。そもそも、要約したりオウム返しするだけでは、まともなコーチング効果を発揮しません。
最初の内は良いのですが、あまりに一辺倒だと相手に「この人は言葉を繰り返してるだけだ」という印象を与えてしまい、不信を植え付けることになります。
対話がベースのソリューションにおいて信頼関係は重要で、不信は大敵となります。避けるための手札を持っておくべきです。
これはコーチングだけでなく、プロダクト開発などの現場で行われるユーザーインタビューなどにも通ずるところがあります。
(ラポール形成と言います。)
一般的にラポールとは「親密な関係」や「信頼し合っている関係」を差し、相手を信頼して打ち解けた状態を「ラポール形成」と呼びます。 「一緒にいて心地いい」とお互いに感じられる二人の間には、ラポールが形成されていると判断できます。
── あしたの人事
テクニック1. 部屋の明かりをつける
コーチングを受けに来ても、自分にある問題や解決の糸口にすぐに思い至らない人もいます。
これは喩えるなら、彼は鏡のある部屋にいますが、その部屋には明かりが灯っておらず、鏡に映す光が無い という状態です。
だからまず、彼の部屋の明かりを点けてあげる必要があります。
例えば、直近の点数を質問してあげます。
「前回から今日までは何点?」「今週の自分は何点?」「今週の仕事は何点?」といった具合です。
すると相手は、何点だったか答えてくれるでしょう。その答えが100点満点でなければ、部屋に豆電球くらいの灯りが灯りました。
あとは「満点 - 彼の答えた点数」には何があるのかを尋ねていくのです。自然と問題は洗い出され、彼は彼自信で解決に近づいていくでしょう。もう仕事は半分終わったも同然です。
テクニック2. 鏡を増やす
問題によっては、相手の中に解決策が無い場合があります。
問題は分かっているものの持ち合わせている才能や能力では解決できない場合や、高い理想像に対して現状を不満に感じる場合、決裁権を自分が持っていないのでやりたいことが出来ない場合などです。
この時、鏡には頼りない自分だけが映っている状態です。自分に出来ることはほとんど無く、諦めかけていたりヤケになりやすい状態です。
こういう時は、正面から鏡になってあげても無意味です。自分を映す鏡ではなく、自分の中に眠る色々な像が映るように、角度の違う鏡をいくつか用意してあげます。
例えば、
「上手にこなしている知り合いはいますか?」
「モデルになりそうな人はいますか?」
「力になってくれそうな人やモノは何かあるでしょうか?」
といった具合です。
周囲のモデルやリソースを鏡として見せて、それを材料に考え、言葉にしてもらうわけです。
そして彼が発した言葉に対し今度は正面から鏡になったり、その像に対して今の自分とどのくらいどんなギャップがあると思うか尋ねてみるのです。
彼は問題解決の糸口を見つけるでしょう。
テクニック3. 鏡を反転させる
時には、鏡の屈折度を下げて、あえて相手の言っていることと違う内容に整理して要約してみせるのも有用です。
間違った整理をすると、相手は緩やかに訂正しようとします。
「いや、xxというよりはyyですね」「そうですね…いや、xxではなかったと思います。yyだったかな」「あ、違うんですよ。実はyyでして…」といったように。
このテクニックは、相手の意見や言葉に迷いが見られたり、相手が何かしらの背景や経験を省略して説明していると思われる時に有用です。
相手にきちんと伝わっていないと感じると、人は再度同じことを伝えるのに、より詳細に物事を説明しようとします。
これは、互いにとってよい効能をもたらします。
まずコーチにとっては、その人の背景を理解するきっかけとなり、今後のコミュニケーションの材料となります。
そして相手にとっては、説明する過程で詳細を再度見直す機会になり、忘れていたことや気づいていなかったことに気づく機会となります。
ただし、相手が引っ込み思案だったり、まだ信頼関係が築けていない場合は、間違った要約を訂正されない場合があります。相手の性質を見て使用する方がいいでしょう。
また、乱用すると「話を聞いていない人」と認識されてしまい、信頼関係を損ねます。たまに使う程度に留めましょう。
テクニック4. 鏡をボヤけさせる
相手の言葉がよく分からない時、人は尋ね返したり、もう一度説明を求めたりします。
ヒトのこの習性は、コーチングではひとつの機会です。
例えば、相手にとってよく分からないであろう言葉を使って要約したり、早口でまくし立ててみます。
バカのフリをするのでもいいですし、専門用語だけを使って頭がよさそうなフリをするのでもいいでしょう。存在しない意味ありげな造語を使っても構いません。
信頼関係を築けていれば、相手は「え?」とか「もう一度言ってもらっていいですか?」などと返してくるでしょう。
当たり前の挙動ですが、実はこれはとても重要な動きです。何故なら、質問される側と質問する側が、自然と入れ替わっているからです。
これまで鏡に映る自分をなんとなく眺めているだけだった人が、曇った鏡を拭いたり、よく見える角度から鏡を覗き込むようになったということです。
この状態が確認できたら、もう一度説明する際、正確な鏡像を返答してあげます。
相手は見方を能動的に切り替えているので、自分の中にすんなり入っていき、同じ話題だったとしても違う方向に話が分岐しやすくなります。
テクニック5. 鏡を歪める
時には鏡を歪めて、相手の言葉の一部を抽出して誇張したり、卑下したような言い方をしてみます。
次のような会話です。
“子どもの養育費で趣味にお金を使えないから稼げる副業をしたい”という話題について相談者のAさんと話をしていると、話の流れで、彼がぽろっとこぼします。
「その辺、同期のBくんは上手なんですよね。YouTubeでそこそこ稼いでるんですよ」とこぼしました。
するとコーチはめざとく、しかし冗談っぽく答えます。
「お、YouTuberですか。いいですね。AさんもYouTubeやります? ヒカキンになりましょうよ。何か得意なことでネタ考えてみません?」
「あ、いやいやYouTuberになりたいわけじゃないんですけどね笑 そういう」
これは完全に架空の例ですが、キーワードを入れ換えると過去にあった実際のある会話にかなり近くなります。
この例にように、相手はうーん、と、煮え切らない訂正や同意をすることが多いです。完全に間違っているわけではないけれど、明らかに言い過ぎ・過激すぎるからです。
この言い過ぎな部分が、自分とのギャップとなり、自分を見直す機会となります。
正しくない鏡像を訂正してもらうという意味で2の“鏡を反転させる”と似ていますが、こちらの場合は「極論」を見せているので、より鮮烈な像や分かりやすいセンテンスとして相手の中に刻まれます。
刻まれたセンテンスは、彼の今後数日間の行動の中でキーワードの1つとなり、実際に行動を変容させることが期待できます。
上記の場合「YouTuber」や「ヒカキン」がこのギャップやセンテンスにあたります。この会話で期待できるのは「得意なことで稼げないか考えてみる」という態度変容です。
余談1:もし上記の会話の後にBくんの会話に派生できたら、Bくんをテクニック1の「角度の違う鏡」の1つにできるでしょう。
余談2:こういったセンテンスは完全に忘却曲線に沿って忘れられていくので、コーチングは週次以上の頻度で行うのをおすすめしています。特に初期においては。

テクニック6. 化粧鏡になる
鏡には色々種類があって、手鏡もあれば姿見もありますよね。化粧鏡という鏡もあります。
この化粧鏡は、ゆるい凹面鏡になっていて、現実の自分よりも痩せた自分や足の長い自分、目の大きな自分を見せてくれます。これは正確さとしては問題がありますが、一方で自信をもたらしてくれます。
これと同じ効能をコーチングでも発揮することが出来ます。
といっても、無根拠におだてるというわけではありません。
例えば相手が何かしらのアイデアや独自の考えを話してくれた時に、その言葉を更に美化して言葉を飾って表現してあげます。
「肯定する」「アイデアに乗る」「既成事実かのように質問する」「イメージをふくらませる」「考えを装飾する」という意識で会話するとよいでしょう。
例えば相手が
「会社をやめて田舎で釣り堀を始めようと思っている」と話したなら、
「おおー、思い切りましたね!のどかでよさそうですね。あーでも人が多い釣り堀もそれはそれでいいな。僕も遊びに行きますよ。どこで始めるんですか?」といった具合に返してあげます。
このセリフには「完全に肯定する」「のどかな像を描く」「繁盛している像を描く」「やるならどこでやるか具体的に考えてもらう」という要素が入っています。
「理想的な釣り堀っぽいもの」を鏡に映して、その像を考えを深めるトリガーにしてもらうわけです。
このテクニックは、課題解決とは無関係な方向へ会話を向かわせがちなおだてとは違い、引き出したポジティブな気分を次の思考に向けてもらうことが出来ます。

まとめ
コーチングの基本は鏡になることです。ただ、要約やオウム返しの一辺倒では、良いコーチング効果を与え続けることは出来ません。
ここで紹介した6つをはじめ様々な鏡を手札に持ち、ケースによって使い分け、時には質問する/される立場を逆転したりして、相手の問題解決に貢献しましょう。
ただし、コーチングの基本が沈黙と共感と質問から成る「傾聴」にあることを忘れてはいけません。テクニックに囚われてコーチが喋りすぎてはいけません。上記のようなテクニックは、1時間に1つか2つ使えれば充分です。
参考文献
自分が初期に勉強するのに使った書籍を3冊紹介します。上記で書いた6つのテクニックが載っているわけではないのですが、それに繋がる基礎や体系が載っていて、おすすめです。
ぜひ皆さんも、コーチングを実践したり受けたりしてみてください。コーチングはいいぞ。
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実際にはコーチングにも派閥があり、理解者や伴走者ではなくスパルタな教導を行う、体育会系なアプローチも存在します。これは特に、昭和中期〜平成中期に形成された新人教育プログラムや、その影響を受けた派閥などの中に存在し、現在も行われています。この種のコーチングは、大規模で画一的な性質を持ちます。