前編では、人の言葉の特性を考慮したインタビューのテクニックと、チームにインタビュー結果を浸透させるテクニックを計3つ紹介しました。
後編では、実際に行うべき準備と、ユーザーインタビューの具体的な流れをお話していきます。
こちらは実践の段になって役立つものなので、直近でユーザーインタビューの予定が無かったりまだ猶予がある方は、先に前編をご拝読頂くことをオススメします。
ユーザーインタビューの準備
ユーザーインタビューを行う際、よく分からないけれどとりあえず人に会ってみる、という手段をとる方がいらっしゃいます。
しかし何も準備をしないまま徒に誰かに会って行うユーザーインタビューは、効果的とは言えません。
(まず行動に移してみることは素晴らしいことだと思います。)
インタビュー相手を集める仕事と並行して、まずはインタビューで何を検証すべきなのか、どの質問で何の項目を検証するのかを組み立てましょう。
準備1. 検証する仮説の整理
ユーザーインタビューの準備で最初に行わなければならないのは、インタビューで何を検証するのかきちんと整理しておくことです。
下記は、ユーザーインタビューで検証しよう、と俎上に載るモノの例です。
新規サービスの仮説検証・ニーズ検証
定量的データから得た仮説の裏付け
ソリューション検証1
どのパターンであっても、検証する対象となる仮説を整理しておく必要があります。
必ず整理しておきたいのは、次の4点です。
どういう人がユーザーなのか?
その人の課題は何なのか?
その課題はどういう体験があれば解決するのか?
その体験はどういう仕組みで生み出せるのか?
あるいはニーズ型ではなくインサイト型のサービスの場合は、ここに「その人にはどういうインサイトがあるのか」を追加します。
(仮説探究型のインタビューもありますが、そちらについては言及しません。今回はインタビュー手法の種類についての話ではないので。)
準備2. 仮説を検証する質問項目の作成
仮説を整理できたら、それら仮説に対応する質問項目をひとつひとつ作っていきます。
そのリストが、インタビュースクリプトとなります。
ただし、作成したインタビュー項目はあくまで会話の道しるべ程度に使います。
「この答えが返ってきたらこの質問をする」といったカッチリしたものに仕上げる必要はありません。
何故なら、その質問の先にインサイトが隠れているとは限らないからです。
インタビューで得られる情報は一期一会ですし、話がどういう風に転がるか、どこに情報が転がっているかを完全に予測することは不可能です。
会話の流れを大切にし、積極的に脱線していきましょう。十分に脱線した後、また質問項目に戻るようにすれば大丈夫です。
ユーザーインタビューが口頭アンケートでないことを意識しましょう。
インタビューは2人1組が基本
さて、そろそろインタビューをどのような流れ進めるかの話をしましょう。
ここからはインタビューの最中についての内容になります。
ユーザーインタビューは、基本的に2人1組で行います。
1人がインタビュー役、1人がメモ役です。
必ず役割を明確にしましょう。
また、3人以上の場合でも、インタビュアーは常に1人です(グループインタビューやディスカッション・共同デザインなどは例外)。
インタビュー役は自然な会話に乗って、聞きたいことを聞いて行きます。
この時メモ役は、インタビュアーが組み立てようとしている会話の流れを壊さないよう、インタビュアーから指示があるまで喋ってはいけません。
メモにどんどん質問を書き残していきましょう。
※少し慣れてくると、1人でインタビュアーとメモ役を同時にこなせるような錯覚に陥ることがあります。しかしそれは、あなたが充分な量の話を聞けていないサインです。
1. 謝礼は最初にわたす
さあ、インタビュアーとメモ役、そしてヒアリング相手が揃い、インタビューが始まりました。
あなたは緊張しているかもしれませんが、大丈夫です。相手はもっと緊張しています。
ここはお互いに挨拶を交わして、アイスブレイクをこなします。
このタイミングは、相手の緊張をほぐし、不安を取り除き、短期の信頼関係を生む時間です。
挨拶をしながら、あまり重要なことではない素振りで、サラッと謝礼を渡しましょう。
(謝礼に限らず、重要なことほど重要でない素振りを見せるのはオススメのテクニックです。)
ヒアリング相手は多くの場合、モノ作りやデザインのプロフェッショナルではありませんし、ユーザーインタビューを行った経験もありません。
そのため全体の進行について不安に思っており、その中には謝礼はいつどのようにして受け取ることになるのかという不安が存在します。
不安を抱えたままヒアリングを行うのは発話のノイズとなるため、好ましくありません。実施前に取り除ける不安は取り除きましょう。
2. 進行についてハッキリ説明する
さて、謝礼を渡したら、まず相手に説明すべきは全体の進行とインタビューの目的です。
特に進行については、どういうことをやるのか、どれくらいで終わるのか、録音や撮影はするのかなど、はっきりくっきり説明しましょう。
ただし堅苦しくならないように。
インタビューの目的については、このタイミングではプレゼンテーションしたい気持ちをぐっとこらえて、少しぼかして説明することをおすすめします。
このヒアリングが何かのサービスに活かされるんだということが伝わればそれでOKです。
例えばメッセージングアプリであれば、「友達と簡単にやりとりできるサービスを作っていて〜」という感じ。
より詳細にサービスについて伝えるタイミングは別途後半に設けましょう。
ぼかして説明するのは、詳細な目的を先に伝えすぎると発話にバイアスが掛かってしまう可能性があるためです。
ヒアリング相手には、出来るだけ自然体で居てもらいましょう。
ただ、相手は「何について話せばいいか分からない」という気分になり発話がぎこちなくなることがあります。
これを防ぐため、「関係無さそうなことも、何でも教えて下さい」などと案内してあげるとよいでしょう。
3. 所要時間を宣言する
所要時間について、「だいたい1時間で終わるよね」といった不完全な暗黙の了解に任せるのはおすすめできません。
所要時間はしっかり宣言しておきましょう。たとえ事前のメールで伝えていたとしてもです。
これにより、いつ終わるのか分からない、この後の予定に間に合わなくなるかもしれないという不安を取り除きます。
宣言した時間通りに終えられるよう、インタビュー中さりげなくタイムキープしましょう。
また、良い答えが得られるまで質問を続けたい気持ちもあるかもしれませんが、ダラダラとヒアリングを続けることは禁物です。
長時間のヒアリングはインタビュイーに負担をかけ、矛盾した答えや事実でない答えを招いてしまうからです。
それはノイズとなり、あなたを長期的に苦しめることになります。
4. 相手についての話でアイスブレイク
アイスブレイクで話すべきことは、今日の天気についてではありません。既にヒアリングは始まっています。
出来るだけ、相手の私生活や今日ここに来るまでに行ったこと、朝食、相手の趣味や服装の特徴の話をしましょう。
とにかく、相手についての情報を引き出します。
(ただし事前に調べられるものは事前に調査を済ませておきます。)
これは、インタビューできちんと雑談を組み立てながら自然な流れで質問していくための下地となります。
さあ、ここまでが完了したら、いよいよ本当にインタビューの開始です。
5. アイスブレイクで得た情報をインタビュー項目に当てはめながら質問していく
あなたは事前に作ったインタビューシートを、印刷して手元に置いているか、ノートPCの画面でいつでも確認できるようにしているかもしれません。
いつでも会話の流れを修正できるので、それは良い方法です。
ただ、シートに書いてある質問はアンケートのようなテンプレートで無機質な言葉です。
そして、ユーザーインタビューは口頭アンケートではありません。
アイスブレイクで聞き出した私生活や興味のあること・取り組んでいることなどを当てはめ、その人の私生活や特徴に合わせてその場でアレンジしながら雑談を組み立てましょう。
アイスブレイクで得た内容を使い果たしたら、アイスブレイクを材料に行った質問で得た答えを材料にまた雑談を組み立て、会話を続けます。
ここから少なくとも30分は、それの繰り返しです。
すると、相手がそれと気づかないほど自然に質問をこなしていくことが出来ているはずです。
相手は友人と話すように楽しげに話を聞かせてくれていることでしょう。
6. 考えているソリューションを見せ、感想を求める
さあ、用意していた質問の項目があらかた終わりました。
次々に出てくる情報を捌くことに、あなたの脳みそが疲れた頃でしょう。
ヒアリング相手も喋り疲れている頃かもしれませんね。
そろそろ、あなたが考えているサービスを事細かに伝える時間です。あなたのプレゼンテーション能力を発揮しましょう。
言葉で説明したり実際のサービス・LPを見せて、相手に感想を求めます。
(ユーザビリティテストを行う場合このタイミングに行います。)
説明を終えた後、あなたが質問する内容は下記の3つで充分です。
このサービスをどう思いますか?
あなたなら、どのような時にどういう風に使うイメージが出来ますか?
これが出来たら絶対使う、これが出来ないなら絶対使わないというものはありますか?
ただし、この問いへの回答をそのまま鵜呑みにしてはいけません。その理由は、 前編で記した通りです。(仮定の話に意味はありません。)
実は、これらの質問は、サービスへの反応をもらうためのものではありません。
具体的なアイデアを聞かせることで、相手が私生活や何かの拍子に感じたことがある(けれど忘れてしまいがちな)課題を思い出してもらうことを企図しています。
これら3つの問いで得た答えは、その思い出した具体的な困り事やエピソードを引き出し、深掘るきっかけとなります。
7. メモ役に質問があるか訊く
あなたがインタビュアー役なら、ここであなたはその役目を9割完了しました。質問の権利をメモ役にも渡します。
「◯◯さん(メモ役)から訊きたいことは何かありますか?」
8. メモ役から質問する
あなたがメモ役ならば、あなたが質問を思いつく限り、インタビューの主導権はあなたが握ります。
次々に行われる雑談や飛び出たエピソードの中から、インタビュアーが踏みそこねた文中リンク(前編を参照)を踏み、深掘っていきます。
尚この時は、インタビュアー・メモ役両者とも会話に入って構いません。
インタビュアーが質問の終了を宣言したことで既に一連の会話が途切れており、自然な会話である必要が無いからです。
インタビュアーは既に疲弊しきっているかもしれませんが、もうひと踏ん張りです。
9. 次のインタビュイーの紹介をお願いする
似た属性を持つ人に引き続きヒアリングを行う計画がある場合、友人などの紹介をお願いしましょう。
「自分たちにはあなたの協力が必要である」ということをしっかり伝えると、紹介してもらいやすくなります。
OKしてもらった場合、その後の調整をしやすいよう、どの連絡手段でどういう流れで調整するか口に出して確認しておくことをオススメします。
10. インタビューの終了を宣言し、質問が無いか訊ねる。
最後に、インタビュー自体の終了を宣言します。
そして、相手から質問や言いたいこと、伝えたいことが無いか確認します。
11. しっかりお礼を言う
時間をとってくれた相手に感謝を表します。
(僕は毎回握手するようにしています。)
12. また連絡してもよいか確認する
同じインタビューは1回しか出来ませんが、仮説が変わったりプロトタイプが修正されたり、サービスがリリースされたりした後であれば、同じ人でも異なる内容のインタビューになるはずです。
プロジェクトが進捗してきたらまた連絡をとってもよいかしっかり確認し、もしOKであれば、引き続き連絡をとれる関係を築いておきましょう。
【ソリューション検証】
思い描いているサービスの形が最適かどうかについての検証を指します。この検証を行う場合は、ユーザーインタビューだけでは検証不可能です。この場合、いますぐに行うべきはユーザーインタビューではなく、MVP作りやプロトタイピングです。