ミーティングは悪ではない!? むしろ時間を節約するミーティング術。
「ミーティングが多すぎて作業時間が30分しか無い」という状況に出くわすことがあります。特にマネージャー層でこの傾向は強く、これは良くない状態ですが、逆に言えば生産性向上の大きな余地でもあります。 私も複数社と仕事をする中でMTGに押しつぶされそうなことがあったので、ある方法でこれを解決し、むしろMTGを時間節約の武器・そしてフリーランスとしての武器にしています。その方法と解説をシェア。
Introduction
ミーティングという仕事は、自分だけで完結しないことから日常的な業務の中で最も難易度とカロリーが高く、且つその良し悪しはチームの生産性に広く影響を及ぼします。
世の中には悪しきミーティングが大量にあり、そのおかげで昨今では会議自体が悪で無意味なものであるかのように扱われています。
例えば2023年1月には、Shopifyは多くの会議を禁止し、社員にMTGを断ることを推奨しました。1
あるいは昨今Twitter買収やその後の振る舞いで注目を浴び続けるイーロン・マスクも、ミーティングの非生産性に疑問を呈し続ける1人です。
イーロンは会議で、メンバーの1人にこう言った。『君は何も発言していない。なぜここにいる?』
── 会議の時間を無駄にしない、イーロン・マスク氏の残酷なやり方
会議 = 罪?
彼らと同じく、私も会議は最小限にすべきだと思っています。全ての会議を無くすべきだと言っていた時期すらありました。
しかし、あることを始めてから格段に会議が上手く進むようになりました。自分でMTGを取る方が効率がよくなったので、誰かがMTGを取る前に自分で時間を押さえるほどです。
結果としてミーティングに取られる時間が減り、むしろ作業や思考のために使える時間が増えました。
難しいことは何もありません。今日から誰でも実践できる、たった1つの簡単なコトだったのです。
課題と解決法
行ったあることとは、ミーティングについての説明をカレンダーに逐一書く ということです。
…え、それだけ? と思われたことでしょう。そうです。それだけです。
あえてもう少し詳細に言えば、次の4つの情報を記述するようにしました。
経緯(必須)
アジェンダ(任意)
各アジェンダに費やす時間(任意)
参考資料やURL(任意)
たったこれだけなのに、その工数の何倍ものたくさんの効果を得ることが出来ます。1つずつ説明していきましょう。
カレンダーの記述が解決してくれた5つのこと
1. ミーティングが時間通りに終わる
まず、カレンダーに詳細を記述するようになってからは、それまで頻発していたミーティングの大幅な時間超過や、1回で終わりきらず尻切れになってしまうことが減りました。
100%というわけではないのですが、多くの場合時間通りに終わるようになりました。タイムキープがしっかりしているだけで、ファシリテーションのレベルはぐっと上がり、参加者の満足度も高まります。
これは2つのことによって実現されています。
1つ目は、先にアジェンダを考え明文化することで、会が始まる前に時間配分を設計するようになったことです。これは当日のファシリテーションの練習やイメージトレーニングといった準備も容易にしてくれました。
2つ目は、同じく時間配分の設計によって1回に収まらない会議はあらかじめ計画的に分割できるようになったことです。
2. ミーティングの経緯, 目的が分からない人がいなくなった
何の説明も無く入れられたミーティングについて「何用でアサインされたんだろう?」「何について話すんだろう?」「自分がここに居る意味はあるのか?」といった疑問を感じたことって、きっと皆ありますよね?
この疑問は解消されなければならない基本的な事柄です。参加者の主体性を損ね、MTGのクオリティを大きく下げる要因だからです。
詳細が書いてある状態は、この解消のために役立ちました。具体的には、カレンダーに必ず記述する経緯(や目的)によって。
この情報は、参加者と主催者、そして非参加者にとって次のメリットをもたらしました。
参加者にとって:自分がなぜ呼ばれたのか理解できる・推測できる
主催者にとって:誰を呼ぶべきか明確になり、最小限のメンバーを呼べる
非参加者にとって:自分に関係無いMTGに時間を奪われない
3. 準備時間が減った。クオリティは高まった。
MTGについての記述は、MTGを取った時にすべて書き上げるようにしています。
なぜそうするのでしょうか?後で書いてはいけないのでしょうか?
いけないのです。
そのヒントは、次の問いにあります。
あるMTGを取る時、
そのMTGの経緯や目的に最も詳しいタイミングはいつでしょうか?
MTGへの解像度とヒトの癖
問いの答えはズバリ、MTGを入れる(入れた)その瞬間です。
だって、何かしら必要や目的が生まれたからMTGを取ろうとするわけですからね。
最も詳細に説明出来るタイミングだから最初に書く という一見シンプルな理屈なわけですが、これにはもう少し深いポジティブな理由とネガティブな理由があります。
まずポジティブな理由は、もっとも詳しい状態の時に経緯等を書くことが最も効率が良いことです。
MTG取得時に書いておいた説明文を当日や前日に読めば、このMTGが何だったかをほんの少し昔の自分が今の自分に教えてくれます。あとはその設計の通りにMTGをこなすだけ。これはとてもストレスフリーで快適なミーティングワークです。
その正体は、一度忘れてしまった経緯や情報を思い出すさずに済み、コストの総和が下がっているという価値です。つまりコスト効率を高めています。効率がいいということは、時間を節約できるということです。
次にネガティブな理由は、後で書くことは人間にとって難しいということです。
ある理由から、ヒトはカレンダーの詳細を後で書くことがなかなか出来ません。これは単純に忘れてしまうということもありますが、それ以上にヒトの本能が忌避するためです。
ここでまた問いを投げてみます。
あるMTGについて最も詳しいタイミングはMTGを入れる(入れた)時だと先ほど言いましたが、その反対はどうでしょう。つまり次の問いです。
自分で取ったMTGについて、
あなたがそのMTGに最も詳しくない(≒多くの情報を忘れている)タイミングはいつでしょうか?
この答えは、再度そのMTGについて考える時間の直前です。多くはMTGの直前であり、具体的には前日や当日であることが多いでしょう。
この時期に向けて、短期記憶はどんどん抜け落ちていきます。直前まで記憶は劣化し続けるため、これについて考えたり思い出したりする認知上のコストは日に日に大きくなります。
認知コストが大きくなると、ヒトはそれを回避したがります。この忌避感は生物としての本能なため自覚しにくく、なかなか解消できるものではありません。
MTGへの態度や意識は後天的な個人差によりますが、認知コストが高いものを忌避する性質は先天的にヒトに共通のものです。
つまり詳細を書くことを後に回せば、詳細が無いMTGが出来る確率が大きく上がるのは不可避──ひいてはクオリティの低いMTGが出来る確率も高まってしまうということです。
だから詳細は、そのMTGを取る時に書くのです。
4. 一言も発さない人が居ない
ミーティングは、一般的に面倒なものです。ただでさえ作業や考え事に集中する時間を奪われますし、真面目な顔して話すことに辛気臭さを感じ敬遠する人もいます。
あるいは過去に行ってきたMTGが非生産的なものばかりだったという経験則から、中身を問わず複数人で集まって話すという形態自体を軽視する人も。
一方で、MTGが好きという人やより良いMTGを行おうという意識を持つ人はなかなかいません。
よって一般的に、MTGに参加する人のモチベーションは他の仕事をしている時よりも低くなりがちです。例えばアイスブレイクがMTGにとって重要だと言われることががあるのはこれが理由です。
そしてアイスブレイクよりも愚直にこれらを大きく軽減するのが、MTGの明瞭な目的, 情報, 時間設計, 経緯です。
価値に言い換えれば、何に向かうべきか理解でき、関連情報が分かり、時間を無駄にしない姿勢が分かり、自分の意見・知見が必要とされている理由が理解できること。
端的に言い換えれば、ミーティングに集中するための地盤がしっかり整っている状況です。
こういった状況に近づけるために情報を記述していることによって、私たちのMTGでは一言も言葉を発さない人はほとんどいなくなりました。2
5. 時間と生産性の関係を意識するようになった
MTGを設計することを考えていると、必ず真面目に考える事柄があります。それは次のような問いです。
このミーティングはいつ行うのが最適だろう?
皆さんは、この問いに何と答えるでしょうか?
多くの人は、“参加者全員が空いている時間” を選んでいるのではないかと思います。
それは当然のことではあるのですが、しかしそれは最低限の条件です。それだけでは最適な時間とは必ずしも言えません。
例えば取得した時間が、ある参加者にとって「カレンダー上は空いてるけど集中して作業できる貴重な時間」だったら、それは最適と言えるでしょうか?
最適な時間
私なりの「最適な時間」は、まさにその点に配慮された時間です。具体的にはメンバーのDeep Focus Timeをなるべく削らないタイミングと時間です。3
考えた結果、この時間は目視で見つけることは難しい4ことに気づきました。
そのため、Clockwiseというシステムによって最適な時間が自動で指定されるようにしました。このシステムによって誰かの生産性を削る心配が減り、ナッジ効果によって良い時間にMTGが取られやすくしています。
個人的な価値
ミーティングという武器
さて、ここまでこの簡単なテクニックを解説してきましたが、このテクニックによって、現在のところミーティングはフリーランスである自分にとって2つの意味で武器になっています。
1つ目に、解説したような理由から自分でMTGを取ること自体がMTG時間削減になっています。同じテーマでも、誰かがMTGを取るよりも効率が良いのです。MTGが効率的ということは、作業や思考の時間が増えます。
2つ目に、MTGやファシリテーションへの満足度・安心感が、フリーランスとしての信頼感の増幅装置になっているからです。
相変わらずMTGは好きとは言えませんが、だからこそ自ら取ることで、そうでない場合よりも優れた価値を生み出しています。
MTGへの意識
効果を実感するタイミング
カレンダーに詳細を書くようになると、カレンダーに何も書いていないMTGに参加した時(もしくは実施した時)にストレスを感じるようになります。
アジェンダが不明瞭で、どういう経緯があったのかあったのか不明瞭or思い出せない。あるいは自分がなぜここに呼ばれたのか不明瞭で、ここで話された内容や決めたことが何に活用されるのか不明瞭で、すべての話題が他人事に聞こえる。そして周りも同じように感じているのか、コントロールされていない沈黙が目につく...。
このような潜在的な問題が、以前よりもくっきり浮かび上がって見えます。
これは悪いことのように聞こえますが、実はポジティブなことです。改善すべき問題を発見する力がついたわけですから。会議の良し悪しに鼻が利くようになった、あるいは新たなセンスが備わったと言えるかもしれません。
MTGは悪ではなかった
この鼻(あるいはセンス)によって、今は自信を持って言えます。
昔、ミーティング=悪だと考えていたことについて私は反省しなければなりません。
MTGの生産性の低さや生産性の低いMTGによって作業時間を奪われるといったことは、実はMTGに特有の問題ではなく単に能力の問題だったと自ら証明してしまったからです。
つまり、私はミーティングがヘタクソだったのです。それをMTGという形態のせいにしていたに過ぎません。なんて他責で傲慢なことでしょう。
すべてのMTGが悪いなんてことはなく、悪しきMTGが悪いのです。そして、悪しきMTGを自ら撲滅しようとしない状況や意識が罪なのです。
最後に
簡単なチェックリストを置いておきましょう。このいずれかに当てはまるなら、それは私と似ているかもしれません。あなたもこのテクニックを試してみてください。
ミーティングを取る際、他人の時間にリスペクトを持っていると言えない
「とりあえず」という気持ちで雑にMTGを入れていると思う
MTGに作業や思考の時間を奪われていると感じる一方、その解決に取り組んでいない
会議・ミーティングは全て悪もしくは必要悪だと考えている
今後もこのような情報を発信していきます。興味がある方は、ぜひSubscribeと私のTwitterもフォローしてくださいね🙏
【Shopifyのミーティング撤廃】
Shopifyは2023年1月に、3人以上集まる定例会議の全面撤廃し、MTGを堂々と断ることが推奨されました。また週に使えるMTG時間にも制限を設け、同社CEOの「会議はバグである」という発言は注目を集めました。
【一言も言葉を発さない人】
実は詳細を書いただけで「一言も発さない人」を完全に撲滅することは出来ませんでした。「何も言わなくていいけど聞いてて欲しい」という理由でアサインされるケースが解消されなかったからです。この解消には別のソリューションを必要としました。これに対する私の回答は「アクセシブルな録画」でした。
【Deep Focus Time】
Deep Focusは重要な概念ですが、本稿で説明するには重要すぎるテーマです。ここでは、入門にちょうどよい参考記事を下記に置いておきます。
【目視で見つけることは難しい】
Deep Focus Timeに配慮した時間は、数人であれば目視でも時間をかければ見つけられます。が、人数が多くなると目視で見つけることは許容できないほど時間がかかり、実質的に不可能になります。