ありそうでなかった! ポートフォリオに代わる、デザイナー採用のユニークな方法とは
プロダクトデザインやUXデザイン職の採用においては、面接もポートフォリオも見極めの根拠としては少し頼りないものです。私自身もデザイナー採用で面接官や評価者をすることがありますが、そこで分かるコトなんてたかが知れています。だから面接は最小限にし試用期間を設けることを推していたんですが、先日、より良い方法に出会いました。ぜひこの形をとる企業が増えるといいなと思い、その方法をシェアします。
誰かと議論するのが好きで、社内のメンバーだけでなく社外の人とも話す機会をちょいちょい持つようにしています。
そのためにやっていることの1つに、興味が出たプロジェクト, プロダクト, 会社の面談・面接に気軽に申し込んでみる、という個人的な取り組み(?)があります。
気軽に話すだけで面接まで行かないことが多いのですが、今回はある会社と面談で気が合いそうな予感があり、面接まで受けてみました。
まさかのテスト
「面接受けます」と言いはしたものの、基本的に面倒くさがりで面接という形式張ったものが嫌いなので、自分で言ったくせに気を重くしていました。
すると、日程調整等のためのやり取りの中で予想もしていなかった案内が届きます。
テストの案内でした。
デザイナーに、テスト?
エンジニアの面接で試験やテストを設けるというのは、今や一般的だと思います(その是非について各々意見があるにしても)。
でも、この時私が申し込んでいた職種はエンジニアではなくプロダクトデザイン職でした。案内文を見る限りエンジニアと間違えたわけでもなさそうです。
個人的に、プロダクトデザイナーについて採用時にテストを設けている会社は初めてでした。
これには正直、予想外の面倒さを感じました。返事するか断るかそこそこ迷って、しかしこれも勉強だと思って素直に受けてみることに。
あとで調べてみると、伝統的な分野のデザイン職種では実技課題・実技試験というのはそこそこ一般的なようです。が、UXデザインやプロダクトデザインの職種でテストというのは、珍しいように思います。
偶然出会ってこなかっただけかもしれませんが、自分は気分次第で必要以上に面談や面接に申し込んでいるため、経験している回数はおそらく一般的な水準よりかなり多めです。
その中で出会ってこなかったということは、ありそうで無かった新しめの取り組みなのかもしれません。
ちなみに英語で調べてみるとプロダクトデザイナーのテストについて触れている記事やブログはいくつかありましたが、日本語ではほとんどありませんでした。
どんなテストだったか
本題ではありませんが、どんなテストだったか、軽く紹介しましょう。
あらためて、テストの案内文を引用します。
【ワイヤーテスト概要】
・あるお題(ユーザー要求)に基づいて情報設計-ワイヤーフレームとしての提示をお願いするワークです。
・流れとしては、まずお題の説明をこちらから実施したあと、追加ヒアリング等を交えつつ情報設計-ワイヤーフレームの作成を行っていただきます。その後、設計意図や検討ポイントを解説いただく形です。
・ツールの定めはありません。手に慣れたものをお使いください。(作業している様子を拝見したく、使い慣れているデザインツールを画面共有できる環境をご用意ください。)
・要求理解やユーザー行動の検討、情報設計といったスキルを確認するワークです。フィニッシュワークとしてのUIデザインスキルを確認するものではなく、また時間内に作り切ることを目的としたものではありません。
・詳細については、当日面接官からスライドを使って改めてご説明させていただきます。
要約すると、基礎的な要件やドメイン(お題)について、ヒアリング〜IAづくりという一連の仕事をやってみせてくれ、という内容です。
そして後半部分を文面通りに受け取るならば、このテストは一般的な学校で行う試験とは異なり、アウトプットの正解/不正解を見るわけではなく過程を見るテストのようです。
テストは1.5時間で、内訳は次のようなものでした。
テストの説明・お題共有等:10~15分
ヒアリングおよび作業時間:60分
作成物の説明と議論:15分
テストへの感想
余談ながら、テストへの個人的な感想も残しておこうと思います。
結果
先に言っておくと、テスト結果が合格なのか不合格なのかは分かりません、これはまだ分からないということではなく、きっと分からないままだと思います。
何故なら「テストは合格/不合格 かつ 面接は合格/不合格だったよ」といった細かな案内を企業側は普通しないからです。また、過程を見ると言っているテストで、合否というものを付けているかも不明です。
よって合格の場合も不合格の場合も、テスト自体の合否は不明瞭なままでしょう(合格してそのまま入社すれば、担当者に非公式に合否や評価を尋ねることは出来るかもしれませんが)。
恐らくそうなるだろうと考えてテストの最後に軽く評価を尋ねてみると、合否は不明ですが次のような答えを得られました。
UIを作る前にフロントやバックエンドと設計について話せるものを作るのが良いと思った1
ワイヤーを作るのに否定的な意見をお持ちだったが、ウチではそういった何らかの形を見せる必要があることが少なくない
60分で出来たこと
60分の作業時間で、私は半分をヒアリングに、もう半分をIAづくりに充てました。ワイヤーフレームは作るつもりが最初から無かった2ので、偶然余った5分間だけワイヤー作業をしました。
具体的に作ったモノの説明は割愛しますが、作ろうと思っていたものは作り終えました。普段は60分で完了するほど早く出来ないしすべきでもないのですが、デモだと思って、タイムキープのために色々な箇所を簡素化して進行しました。
最終的にワイヤーフレームの体だけは書いたのですが、これはほとんど無意味でしたね。作ったワイヤーは後の議論の焦点にはなりませんでした。3
ちなみに、試験官の方はまる30分間他人の作業を見続けることになるわけなので、暇だろうと思い4、せっかくならば少しでも楽しんでもらおうと「思考発話法5」を取りながら作業しました。
思考発話した事柄は後で議論の際に質問や指摘のタネとして実際に使っていただけたので、多少は退屈せずに居てもらえたのかなと思います。
デザイナーの採用にテストを設けること
閑話休題。さて、本題はここからです。
このデザイナー向けのテストという体験は、非常に勉強になりました。自分自身もデザイナー採用に関わることがあり、その中でどう見極めればよいのか不明瞭だったからです。
面接でもポートフォリオでもよく分からない
採用では、必ずといっていいほど面接があります。また、デザイナー採用ではポートフォリオも求められることが必須レベルで多いですよね。
しかし、私はどちらについても否定的でした。
1に面接で分かることは少ないですし(知り合いの採用人事が言うには、面接で分かることは20%か30%くらいなんだそうです)、
2にポートフォリオは評価にバイアスがかかりやすいものです。アウトプットされたビジュアルのクオリティと量によって(見た目は重要ではないと言う評価者でさえも)。
どちらもプロダクトに関わるデザイナーの評価軸としては頼りなく、私の結論はいつも次のようなものでした。
良い人かどうかは、一緒に仕事してみないと結局分からない
デザイナー採用の小さな変革
試用 vs テスト
ではどうするかというと、短期間試用期間として雇用し、実際に仕事をともにしてみるべきだ、というのが自分の主張でした。
しかし誰もが試用期間や何かのプロジェクトに試しにスポットで参加することを受け入れるわけではありません。
デザイナーの市場は現在売り手市場ですから、そんな風に手をこまねいていれば人材をどんどん取り逃していくことになりかねません。
そういった現実と矛盾した課題感を持ちつつも、自分は採用のプロではないため時間を捻出できず、これに精力的に対し取り組むことが出来ていませんでした。
こんな状態でまともに仕事になるとは思えず、だから面接を担当するのはやんわり断るようにしていたのですが、テストはこれを解決するバリューを持っているように思えます。
なぜなら、テストは試用期間と似た効果をより短い時間で発揮するように思われるからです。
テストの方が優秀では?
このことを考える上で、今回テストを受けた経験はとても役に立ちます。少し考えてみましょう。
例えば、今回受けたテストではどんな能力を測ることが出来たのでしょうか?
当然ながら外から推察するしかありませんが、私なりに分解してみると、アジェンダごとに次のようなことを観測できそうに見えました。
これらは、試用期間など実際に仕事をともにするアプローチで見れる内容とよく似通っています。
試用期間となると通常1〜3ヶ月はかかると思いますが、1ヶ月かけて得るのと似た価値を1.5時間で果たせるのであれば、これは高い価値を持っていると言えますよね。
ポートフォリオも要らないのでは?
ここでもう1つ、テストによってより良い形でリプレイスできそうなものが思い当たります。それはポートフォリオです。
ポートフォリオは、なぜ求められるのでしょうか? それは、いくつかの意味で実力を知りたいからです。
でも実力を知る上で、ポートフォリオには弱点もあります。ビジュアルに誤魔化されやすいこと, ウソを付くのが難しくないこと, 本人の寄与度が低いプロジェクトも掲載できること, ポートフォリオを飾ることに関心が無い実力者を見落とすこと などなどです。
総じてポートフォリオにはポジ/ネガの両方向に欺瞞(ぎまん)の蓋然性があります。
でも、テストではウソは付けません。シンプルに今の実力が出ます。
ひとまずマネしてみよう
今回私が受けたテストをマネする場合、その方法は2つあります。
1つは、全く同じワイヤーテストを実施すること。
もう1つは、より抽象化した形。つまり、その職種やポジションでよく行う作業やクリエイティブについて一連の仕事をやってみせてもらう内容にすることです。
おすすめは後者で、これならば必ずしもワイヤーフレームや設計についての仕事がメインでなくても応用することができます。結果として同じワイヤーテストになったとしても、それは単に表象をパクるよりも価値があります。
それにこの方が色んなテストを考えることができ、この仕事自体面白そうです。
例えば、”あるペルソナ像を人格として与えたAIエージェントに対しデプスインタビューを行い機会発見を行ってもらう” といったテストを設計すれば、UXリサーチャーの試験なんかに使えそうじゃないですか?
ぜひ皆さんもテストを作ってみましょう!
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【UIを作る前にフロントやバックエンドと設計について話せるものを作るのが良い】
実際の仕事ではUIを作る前に下記2つの議論・設計材料を作成します。今回のテストでもそれを見せました。
あるべき遷移やページ, 利用・作成すべきAPIの検討材料(フロントエンド向け)
DB設計の根拠になる材料(バックエンド向け)
【ワイヤーフレームは作るつもりが無かった】
ワイヤーフレームをアウトプットして、というお題ではあったのですが、それと同時に普段やっていることを見せて、というお題でもありました。なので、普段やらないワイヤーフレームは見せる気がありませんでした。
冷静に考えると反則なので、我ながら普通に不合格案件な気がします。
【ワイヤーは後の議論の焦点にはなりませんでした】
これは作業開始前の時間にワイヤーフレームに否定的な意見を自分が述べたためと、ワイヤーを描くことにほとんど時間を割かなかったためだと思います。
【暇だろうと思い】
自分が試験官だったら、無言でただ見ていると途中で寝ちゃいそうだなと思ったんですよね。
【思考発話法】
いま何をしようとしているか独り言で喋り続けながら作業する(してもらう)手法。ユーザビリティテストなどで活用される。