「プロダクト開発現場の日本人」が身につけるべき、たったひとつのスキル
心理的安全性の重要性はプロダクト開発者の常識になりましたが、依然多くのチームや会社の心理的安全性は頼りないものです。自分もチームに不満を持っていましたが、ある時、心理的安全性は与えられるのではなく獲得するものだと気づきました。そこでいくつかのコトを実践すると、急にチームの心理的安全性に貢献できました。様々な現場の役に立てばと思い、特段「良い人」ではない私が心理的安全性に貢献している方法をシェア。
Introduction
皆さんは、所属しているチームにどのくらいの心理的安全性を感じていますか?
いま簡単に測ってみましょう。心の中で、次の質問に回答してみてください。
1. 基礎
あなたは、他のメンバーの前で躊躇なくアイデアを提案できていますか?
あなたは、失敗するリスクをとれると感じていますか?
それとも失敗によってメンバーから拒絶されることを恐れていますか?
2. 周囲について
作業を引き受けたチームメンバーは約束どおり作業してくれますか?
チームメンバーは作業が遅れる場合に前もって連絡してくれますか?その作業に責任を負ってくれますか?
3. 組織・プロトコルについて
あなたは、チームやプロジェクトの目標と達成のためのプロセスを理解していますか?
あなたは、自主性と責任を与えられ、各自の役割分担が明確であると感じていますか?
…はい、結果はいかがでしたか?
実は、この質問はチームの生産性やマネジメントについて研究したドキュメント『Google rework』より引用・改変したもので、チームの生産性1を構成する低〜中次の因子についての設問です。
上記の質問すべてに完全にポジティブな回答が出来なかった人は今、どうやら心理的安全性が不十分な状況や環境にあるようです。
現実は教科書どおりには行かない
Google re:workには、心理的安全性などを改善するための教科書的なアイデアも用意されています。
ただし、同ドキュメントにはある構造的な不備があります。
それは、既に心理的安全性に興味があるマネージャーやリーダー主導でしか実践できないアプローチが多いということです。
普段複数社とお仕事している私からすると、まだまだリーダーやマネージャーが心理的安全性に気を払っている現場ばかりではないことに気づきます。
それに、プロダクト開発はチームワークです。マネージャーやリーダーでなければ心理的安全性のことを考えてはいけないなんてことはありません。
もっと言えば、メンバーの貢献や理解なしに心理的安全性は育ちません。
だからリーダーやマネージャーの性質, 能力, 意欲を問わず、プロダクト開発の分野で活動するならば自分が居る/居たチームの心理的安全性が高まるような仕事をしたいものです。
あなたなりの”実践編”を持ちませんか?
このためには、Google re:work、ひいては世の中にある心理的安全性の書籍の理論や理屈は教養として知っておきつつも、より現実的で具体的な”実践編”を用意しておく必要があります。
“実践編”を用意する方法は、誰かの実践から学ぶ方法と、自ら発明する方法の2つがあります。
そして、ここからの内容は前者となれると思います。ぜひ参考にしてもらえれば幸いです。
実践による改善は草の根活動です。一緒に開発現場をベターにしていきましょう。
プロダクト開発現場の現実で使えるテクニック
承認しぐさ
心理的安全性を高めるためのナレッジは様々です。
プロトコルを合わせる、傾聴する、HRT原則、OKR、1on1、ファシリテーション、チームビルディング…様々なテクニックが存在します。
それらは大変素晴らしいナレッジであり、私も日々参照したり活用しています。そしてその中には、一般的に日本人がヘタクソなしぐさ2があります。
それが「承認」です。
承認する
承認が日々機能している現場は心理的安全性が高い もしくは高まる素養があります。
承認とは、相手のアレコレについて自分は認識しましたよ と表明することです。
承認が機能するのは、
成果を出した人や仕事をこなした人、好みのアイデアを出した人などがいたら、それに対して
「xxやってたね。アレいいね」
といった具合に軽く触れたり、
挨拶やミーティングの機会に相手の名前を呼ぶといった些細なコミュニケーションによってです。
承認テクニック
承認を示すコミュニケーションはほぼ無限に考えられます。
例えば私は、次のことを実践しています。
好ましいアイデアを作った人に対し「この案良いね」とSlackでメンションする
周囲の仕事を先回りしてこなした人に対して「仕事が早い」「気が利くね」と称賛の意を表す
1on1やコーチングで「ここは出来るようになりましたね」「この目標を達成しましたね」と成長に触れる
相手が意見を言った時「良い意見ですね」「たしかに」と一度受け止めたことを表す。反論がある場合でも必ず。
ミーティングなどで相手の言葉をオウム返しする, 相手の言葉を深ぼる質問をする
ファシリテーションの際、挨拶や指示を名指しして行う
ワークショップやMTGの冒頭で各参加者を呼んだ理由を説明する
「つい承認しちゃう」を作る
承認はとても強力なツールですが、自分だけが承認をしている状態よりも、メンバーの誰もが承認を行う方が、当然望ましい状態です。
そこで応用として、承認のことをよく知らない人でもつい承認してしまう工夫を、自分の仕事について行っています。
比較として、承認しづらい状態とは「いま何してるの?」「今日何してた?」「今月どんな成果があった?」と言われる状態です。
これを解消する方針はシンプルです。それは、あなたの仕事を見えやすくすることです。
意識
まず意識するのは、周囲の人間は必ずしもあなたに興味が無いということです。
たとえそれが上長やマネージャーといった、あなたを見守り評価することが仕事の人間であっても。
あるいはあなたが上司で、メンバーがあなたの意思決定をサポートして然るべきように思われる場合でも。
どんな場合でも自分の状態や仕事に最も興味や解像度があるのは、必ず自分です。
だからこそ誰かに自分の仕事や成果を見つけてもらうのを待つのではなく、自ら露出し興味を惹かなければなりません。ただしゴリ押しではなくナチュラルな形で。
方法
自分の仕事を見えやすくする方法もたくさんあります。例えば私は、次のことを実践し、手応えを得ています。
Slackでスクショをともなうアウトプットの露出
頻度高く分報3を更新する
分報の内容をコントロール4する。
仕事や知見:プロジェクト外アウトプット:雑談 = 6:2:2
くらいに自分の参加したミーティングの録画をシェアする
余談:分報について
なお、もし具体的に書く時間があるのであれば分報ではなく日報も悪くない5と思います。
また、あなたがマネージャーやリーダーなのであれば、デイリースクラムやスタンドアップミーティング、あるいは1日や週の終わりに定期共有ミーティングを設けてもよいかもしれません。
次回は言葉の重みについて
あと3つほど紹介したい取り組みがあるのですが、ここまでで少々長くなってしまいました。ほかの心理的安全性のための取り組みは数回に分けてご紹介します。
次回は言葉の重みをコントロールすることについてです。また来週、よろしくお願いします。
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【チームの生産性】
Google re:workのドキュメントでは、厳密には”効果性”という言葉で記述されている。
【日本人がヘタクソなしぐさ】
日本人が承認ベタなのは、文化的・教育的背景があるように思います。
例えば「ありがとうを言いなさい」「ごめんなさいしましょう」といったことは諸所で教わりますが、「ハグしましょう」「議論しましょう」「相手の言葉を受け止めましょう」とはなかなか教わりませんよね。少なくとも社会に出るまでは。
国内の基礎教育・情操教育で承認能力にもっとも近いのは「挨拶しましょう」でしょうか。外向的な教育が少ない日本においては、一般的に承認能力は低くなりがちなのです。
大人になってからこれを克服するには、意識して学習し承認を新たな能力として獲得する必要があります。私はまさにこのパターンでした。
一方、これは必ずしも日本人の特性というわけではありません。根本は人種によるのではなく教育と文化によるため、似た教育文化圏では似た課題があるでしょう。
【分報】
その時々の状況や雑談などをチームに共有する取り組みおよびそれ用のスペースのこと。
Slack等で”#times_hogehoge, #分報_hogehoge といったチャンネル名で1人に1つチャンネルが設けられることが多い。
【分報をコントロール】
分報の特徴を表すカジュアルな説明として「社内Twitterみたいなものです」というものがあります。何を呟いてもいい空間だよ、という意味です。
でもこれを真に受けてはいけません。
もし真に受けて、プライベートの雑談や社交辞令的な挨拶といった多くの人にとって無味乾燥な事柄を投稿し続ければ、その分報は周囲のメンバーにミュートされてしまうでしょう。
ミュートされれば、心理的安全性も何もありません。実質的に無視されているわけですから。
【日報も悪くない】
分報は日報よりも小さな粒度かつ高頻度で更新するコンセプトが特徴ですが、実際には全く更新されていなかったり、”業務開始します”, “休憩します” といったタイムカード代わりにしか使っていない会社やチームもよく見ます。
これははっきり言って日報の劣化版です。何もワークしていません。思い切って廃止し日報に切り替えたり、日報or分報の選択制にするなど手を打つべきかもしれません。
一般的に、心理的安全性が低いチームほど分報はワークしません。個人的には分報が大好きですが、手段にこだわるのは本末転倒です。