フリーのUXリサーチャーが、リサーチに興味をもってもらうためにやっていること。
社内に「UXリサーチって実際何やってるか知らない」「ユーザーインタビューやUT, その分析や処理を新人に教える良い方法が無い」といった疑問や不安、課題が存在・出現することがあります。この状態はUXリサーチが永遠にリサーチャーの専有物になる原因です。 私も度々そういった課題に当たることがあったので、これの解決策としてある方法を行い、2つの意味で改善することができました。その方法と実験結果をシェア。
Introduction
UXリサーチやデザインリサーチという分野は以前に比べ、国内にかなり浸透しました。
10名以上の専任リサーチャーが存在する開発チームも、大企業中心に数えられる程度には出現し、その数は増え続けています。
それら企業では「あれもこれもリサーチしてくれと言われて、全然数が足りないんです」という状態です(これは私の想像ではありません。)
人気と必要の結果、UXリサーチャーはもちろん、プロダクトデザイナーやサービスデザイナーなどの職種にもリサーチのスキルが求められるようになりました。
ですが、そんな今をときめくUXリサーチャーたちは、実態として一体なにをしているのでしょうか?何にそんなに必要なのでしょうか?
(今回は「UXリサーチャーって何してるの?」という話はしません。問いかけておいて恐縮ですがそれは主眼ではないので。)
知らないのが普通
UXリサーチの仕事が具体的にどんなものなのかよく知らない人たちは私たちUXリサーチャーの周囲にも多くいます。
というより、そういう環境ばかりです。例外は冒頭に掲載した企業たちくらいのもの。
そしてよく知らない人たちの多い環境で起こるのは例えば「UXリサーチャーに仕事(調べてほしいこと)が回ってこない」といった事態です。
これを解決すべきかどうか ── つまりUXリサーチを行うべきかどうか ── は今日のところは置いておいて、解決しようと思うならばその方法はシンプルです。
UXリサーチャー以外にリサーチを行う・関わる人数を増やすことです。
私たちの方法
ここで、私たちのやっている方法を紹介しましょう。
私は実際に、チームのメンバーへUXリサーチをインストールするという仕事をしています。その中で、1つとても分かりやすい方法を取りました。
私がUXリサーチの中でやる分析作業をライブで行ったのです。
UXリサーチライブ
同ライブは、あるユーザビリティテストをテーマに行いました。
進行としては、録画から発話を切片化→課題特定→インサイト化→改善案出し という1サイクルを、ところどころ端折りながら行いました。
分析者はUXリサーチャー(私)。
参加者はデザイナー, エンジニアです。
ライブで分析しながら「いま何をしようとしているのか」を常に言葉にする思考発話形式で進めました。
ちなみにライブのセッティングは次のようになっています。
また、このライブは録画しており、この回に参加していない人でも後から観ることが出来るようになっています。
なぜライブにしたのか?
ライブを行ったことで、参加者や視聴者には、UXリサーチって何してんの?という状態から、こういう風にすればいいんだな、こういう仕事してるんだなという風に理解を深めることができ、彼らは実際の作業への心構えと取っ掛かりを得ました。
それ自体も達成したかったことではありますが、他にも狙いがあります。
達成したかったこと
まず前提として、UXリサーチにあたっての自分の方針は「リサーチは誰がやってもいいし、誰でもアクセスできるべきである」というものです(能力の問題はありますが)。
このために私が実際にやっている中でおすすめの形は、次のような体制です。
方針:アトミックリサーチ
方針実現のためのツール
リポジトリ:Dovetail
録画ツール:tldv, Meet, Zoomなど
しかしこの体制を整えただけでは、それだけで誰でもリサーチできたりアクセスできるようには、なかなかなりません。
理由は2つあります。
1つは、そのままではリサーチの仕事や調査結果に関心を持たれないこと。
もう1つは、リサーチャーがリサーチについて組織に浸透・伝播する取り組みを、調査や分析といった主要な仕事と同時にこなすのは非効率かつ限界があること。
ライブは、この2つに対して良い効能を持っているように思えました。
まず、Dovetailでの作業は面白いということを伝えることができます。
従来は切片化やトラッカブルに管理する作業はとても地味で面倒・辛い作業でしたが、Dovetailはその辺りが楽なので、ライブの中で目に見えて切片が作られていき縦横無尽に紐付きが出来ていく様子を見せれば、みんなにも面白く思ってもらえる自信がありました。
次に、そういった面白く且つ具体的な作業を見せ、自分にも出来ると思ってもらう1ことで、リサーチャー(私)のいないところ・知らないところで参加者が自然とリサーチの話を出す可能性を上げることが出来ます。
伝播を引き寄せる
リサーチの周囲に密度別の層があるとしたら、密度の濃い人を増やすことで組織内の伝播速度を上げることが可能なはずです。
ライブで分析方法や過程を見てもらうという方法は、種別としてはナレッジシェアに当たります。シェアされる内容が”面白くて自分にも出来そうと思えること”である点も鑑みると、ライブは密度の濃い人を増やすためにちょうど良いんですね。
リサーチを誰でも出来るようにするには、とにかく一人でちまちまやっていても埒があきません。機会を自ら作り、仲間を作り、その場にリサーチャーがいなくても陰に陽にリサーチに触れる人や頻度を増やすのです。
結果
以上がやったことです。結果は2つあります。
まず1つは、ライブ当日の参加者はユーザビリティテストの分析はおよそ実施可能な状態になりました。
他の学習方法に比べ圧倒的に高い学習効率を持っています。まあマネするだけでいいので即効性は当然といったところ。
もう1つは、伝播について意図した結果が出始めていることです。
自分が知らないところでリサーチが進んでいることがあり、MTGの録画2の中で「吉永さんのライブの録画見れば誰でも出来ると思う」といった会話があることを見つけたことなどがその例です。
FAQ
Q. UXリサーチも専門分野なので「誰でも出来るようにする」よりもきちんと分業した方が良いのでは?
A. 分業すべきという点についてはそう思います。一般的には。
ただ分業の際に気をつけたいのは、連携や協働に必要な知識・スキル・経験まで分断しないようにすべきだということです。ちょっぴり越境した知識や職能があった方が、連携する両者のワークフローは滑らかになります。
UXリサーチについても同じことです。
たとえUXリサーチが職業や部門として分業されていたとしても、それが知識・経験・職能を分断すべき根拠とはならないでしょう。また、知識・経験・職能を伝播させることが分業せざるべき根拠になることもないでしょう。
だから「誰でも出来る」かつ「分業している」状態は成り立ちます。単に役割の問題に過ぎないのです。
今後もこのような情報をTwitterやニュースレターで発信していきます。興味がある方は、私のTwitterもフォローしてくださいね🙏
【自分にも出来ると思ってもらう】
実際、分析をまだやったことが無い人でも、少なくともこのライブの録画を見返せばマネして実践することが出来るでしょう。
【MTGの録画】
同社では、ミーティングなどを日常的に録画するようにしています。ユーザーインタビューのような調査目的でなくても。参照記事↓