なぜ「外部参照先」が心理的安全性を高めたのか?
心理的安全性の足を引っ張る1つが「言った言わない問題」です。不毛な議論だと誰もが分かっているのですが、心理的安全性が低いとどうしても起きてしまいます。私もこれに苦しむことがありました。そこで今ではチームに簡単な仕組みを設計して、人の振る舞いを誠実に保っています。「言ったでしょ」「聞いてません」を「ごめんね」「すぐやります」へと健全に変える"ある方法"をシェアします。
Introduction
前回は、心理的安全性を高める”実践編”を皆さんに手に入れていただくために、言葉の重みについて、感謝を抑えるそしてフォローするという取り組みを紹介しました。
前回の記事↓
引き続き、心理的安全性のために私が行っている中から今のところ大変成功している取り組みを紹介していきます。
実践による改善は草の根活動ですから、一緒に開発現場をベターにしていきましょう。
今回は、”外部参照先”がテーマです。
言った言わない問題
心理的安全性を破壊しやすい事象の1つが「言った言わない問題」です。
言った言わない問題には色んなパターンがありますが、最もよくあるのは次の3つでしょう。
1つは、言ったことを憶えてないパターン。特に意思決定者とその影響を受ける人との間で起こります。
もう1つは、他人が言ってないことを言ったことにしているパターン。
最後の1つは、自分が言ってないことを言ったことにしているパターン。
どれも厄介ですが、2と3はアンコンシャス・バイアス1によって起こるため、特に厄介なパターン2です。
これらのことは誰かが意図的に嘘をついているわけではなく言った”つもり”, 聞いた気がする” といった思い込みなどのバイアスがそうさせているだけで、実のところ、こういった会話は避けるべきことだと誰もが分かっています。
デザイナーも、エンジニアも、マネージャーも。部下も、上司も、経営者も。不毛な会話だと全員が分かっているのです。
それでも、心理的安全性の低い環境はこういった発言を生み出してしまいます。
いったい何故なのでしょうか?
問題を分解
解決の糸口を見つけるため、この問題を分解してみましょう。
下記は、ある時起こった言った言わない問題を分解し抽象化した図です。
この言語化によると、言った言わない問題はいくつかの要因が同時に重なって起きていることが分かります。
基礎的な要因:意見の変化速度, 解像度の変化速度にギャップがある
かつ:この差を埋める工夫なく放置している
かつ:同期的コミュニケーション(口頭など)での連携が多い
もしくは:外部参照先を大事にする環境や文化が存在しない
もしくは:プロトコルがデザインされていない
もしくは:プロトコルが共通認識化されていない
解決方法
この状況が言った言わない問題を引き起こすなら、これを解消することが心理的安全性に貢献するはずです。
問題の解決方法はたくさん考えられます。その中でも私が実践していることは、口頭や記憶以外に参照先を作り、それを正式なプロトコルとすることです。
例えば次のことを実践しています。
ドキュメントと会話する
決めたことはドキュメントに書く
書いたら自分の記憶は捨て、次からはドキュメントに頼る
ドキュメントと会話してもらう
口頭やチャットでは、
ドキュメントに書いた旨とそのスクショ, サマリーを共有する折りに触れ「自分はもう忘れちゃったんで、この仕様書を正にして話しませんか?」などと参照先を提案する
出てきたタスクをGTD3基準で分別し、今すぐ対応しないことも全てすぐにTODOリストに記載する
解決された理由
このプロトコルによって実装されたのは、単なるドキュメントやTODOだけではありません。
真に重要だったのは、誠実さが実装されたことでした。
誠実さをチームに埋め込む
外部参照先を正として扱うとようになると、客観的に抜け・間違いを認めやすい状況が生まれます。
例えば「xxって言ったでしょ」と言いたくなる場面でも、外部参照先が正というプロトコルなため「ごめん、ドキュメントに書いてなかったね。すぐ書きます!」といった具合に建設的に進行できます。
あるいは言われた側が忘れていた場合も「ごめん、ここ見落としてました!あらためて対応しますね」といった具合。
外部参照先を作り忘れた, 書いてあることを見落とした ということは誰の責任か自明なため、誰もが自らの責任を客観的に認めやすくなります。そこに言った言わないといった他責な問題の余地はありません。
他責が入らない、つまり、振る舞いが誠実になりやすいと言えます。
こうした誠実さは心理的安全性の要件の1つですので、外部参照先が正であることは心理的安全性に貢献するわけです。
おわりに
今回3週に渡って用意した心理的安全性についての取り組みの紹介は以上です。
心理的安全性はチームワークにおいて普遍的に重要な概念なので、今後新しい取り組みや効果・プラクティスを見つけたら、また紹介しようと思います。
実践による心理的安全性の改善は草の根活動です。ぜひ一緒に開発現場をベターにしていきましょう。
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【アンコンシャス・バイアス / Un-Conscious Bias】
無意識な思い込みや偏見のこと。例えば、無意識のうちに特定のグループや属性によって他の人々を評価してしまう傾向。
世間的には、人種差別問題やLGBT差別問題の文脈で登場することが最も多く、著名人やセレブリティがジョークのつもりで言った発言が大炎上し、当人がアンコンシャス・バイアス・トレーニングを受ける といったケースが北米では見られる。
こういった無意識下での評価は、人々の経験や文化、教育などから形成されます。このバイアスは行動や意思決定に影響を与え、公平性や公正性を損ないます。
当然ながら、心理的安全性にとっては大敵です。「気付いてなかった」は言い訳になりません。
このバイアスを自然に治療することは困難で、克服するにはアンコンシャス・バイアスの概念と存在を認知した上で、自己の思考や行動を客観的に見つめ直す努力が求められます。
【パターン】
紹介した3つのパターンはいずれも言った側の問題であるように書きましたが、反対に言われた側が忘れていた場合にも同じことが起きます。
ただここでは、言った側, 言われた側どちらに問題があるかは重要ではありません。
心理的安全性に照らすなら、どちらに問題があるかよりも、こういった会話が起こること自体が問題だからです。